【連載 0】 「連載開始にあたって」 シン・ムジカ 蓑島晋 【連載 1】 上野学園 石橋メモリアルホール 畠山すみれさん 【連載 2】 静岡市清水文化会館マリナート 清重友紀子さん 【連載 3】 株式会社エスピーエスたくみ 村田裕輔さん 【連載 4】 有限会社ティー・エム・アソシエイツ 和田知彦さん 【連載 5】 王子ホール・ステージマネージャー 小林雅耶さん 【連載 6】 調律師 松尾楽器商会 玉川育哉さん


【舞台を支えるひとびと】連載開始にあたり


 私は美しい音楽、時間、歴史が続くことを願う一人です。

 ある時期、公共ホールに勤務する傍ら、音楽事務所に勤務し事業制作を担当していました。時にはプレイヤーとしても活動し、体力、精神共に消耗する日々を送りましたが、より良いコンサートの実現に向けて、それぞれの立場(ホール・主催者・演奏者・観客)の役割や意味を考え続けた経験は、今の私の信念を形成する大きな礎になりました。また各所の業務を具体的にイメージしながら進行することを身に付けました。クラシックコンサートを含める舞台芸術は、全ての立場にある方々がお互いを尊重しながら役割を果たすことで築くことのできる、はかなくて尊い世界であると感じます。
 現在はコンサートを制作する立場として、ステージマネージャー(舞台側)や受付スタッフを務めることが多いのですが、演奏会当日は奏者をお迎えしてリハーサル開始までの時間が「勝負」です。ホールにできるだけ早く入館し、職員さんやスタッフさん、調律師さんとコミュニケートする時間の中で、本番に向けて柔軟な「和」を創るよう努めます。仲良しや馴れ合いとは無縁です。ホールの皆さんが主催者(制作者)や出演者の内実や意向をどの程度理解くださっているか、またどの程度理解しようとしてくださるかが分かってきます。それを踏まえて、終演までの進行プランを瞬時に臨機応変に練り上げ、予定通りに退館できるとほっとします。入館からリハーサル開始まで、私にとっては当日の成功の鍵を握る、とても大切な時間なのです。
 たった一回であっても、コンサートは企画から実施まで様々な役割や立場の人々が関わり、その全ての人がひたむきに成功を見据え、心と力を尽くすことが、ステージ上のパフォーマンスに大きな影響を与えるということを忘れたくありません。本当にたくさんの方々に支えられ助けていただきました。しかし実際の現場では、そうした意識が感じられず、憂いを抱くこともありました。理想とのギャップに悩んでいたときに、この「舞台を支えるひとびと」という企画は生まれました。

 ご登場いただく方々は様々な経験や考えをお持ちの皆さんです。業種の違いから見える価値観の相違や、年齢差によって現れてくる業界の移り変わる様子は、とても興味深いものです。そして特に印象的なのは、若い世代の謙虚で質朴な輝きです。私が彼らの年齢の時、果たしてこれほど他者の想いを尊重し、物事の本質を見抜く能力を持ち合わせていたかと、反省させられます。加えて決断力と実行力も、本当に見事です。
 光のあたる存在ではないけれど、それぞれの仕事に魅力と可能性を見出し、更なる進化を目指し歩む、意欲ある多くの人々と接してきました。その出会いのひとつひとつが自身を省みる機会であり、私のような凡庸な人間にとって、せめて実直に愚直に前進していこうという原動力となっています。
 この連載が、インタビューを受けてくださった皆様との対話を通して、私自身の考えや培ってきたものを見つめ直し、発信する場になることを願っています。

 連載にご協力いただいた皆様に感謝を込めて。
平成27年3月
シン・ムジカ 取締役社長
蓑島晋