ブログ (2014年)

≪English Tenor≫イングリッシュ・テナー【2】

2014年12月2日(火)

≪イングリッシュ・テナー≫の原点に遡る。

「ミスター・ヘンデルは極めて素晴らしいイングリッシュ・ヴォイスを得た・・。」

オラトリオ『メサイア』の作曲家として有名なG.F.ヘンデルが見出し育てたテノール歌手「ジョン・ビアード」について書かれた新聞記事の一節である。彼の出現が、ヘンデルのその後の作品に大きな影響を与えた。

●ジョン・ビアード(ca1717-91)

ピアードのためにヘンデルが作曲した幾つかのアリアを見て行くと、彼の声を想像するヒントが浮かび上がってきます。それは、イタリア人テナーのために書かれたそれまでのアリアには、殆ど見られなかった、ロング・トーンの美しい、滑らかなフレーズが現れるという事です。これがつまり、極上のイングリッシュ・ヴォイスのために書かれた音楽なのです。そしてこの事から、ピアードの声質や表現形態は、限りなく現代の「イングリッシュ・テナー」のものに近いということが想像できるでしょう。(辻裕久)

≪イングリッシュ・テナー≫はジョン・ビアード(ca1717-91)にはじまり、ピーター・ピアーズ(1910-86)によって大輪の花を咲かせ、今も伝統が受け継がれている。その歴史が生み出した膨大なレパートリーは、イギリス声楽史上、重要な位置を占めている。

その歌唱技術ゆえか、彼らの来日公演では古楽作品、あるいは、人気の高いシューベルト、シューマン、ベートーヴェンの歌曲というプログラムが多いようだ。集客を考慮しての判断もあるだろうが、イギリス歌曲も存分に聴かせて欲しいと願う。

8年ほど前だろうか、イアン・ボストリッジがシューベルトとブリテンの作品を歌ったリサイタルに接した。それについて、故畑中良輔先生に「ブリテンは良かったのですが、シューベルトは・・・」と感想をお伝えしたところ、「そうだろう、僕もそう思う。」とのお返事であった。

~閑話休題~

≪イングリッシュ・テナー≫の特質は、内なる強烈な感情を秘めつつ大きな表現を避ける、日本人が共感し得る演奏スタイルの筈なのだけれど、翻って考えると、残念ながら現在の日本人が好む(興味を持つ)スタイルではないのだという納得感も。自分たちに近いものより、遠いものに憧れるという気質によるのだろうか。

イギリスの歌唱技術と伝統を彼の国で学び、演奏も数多く行ってきた辻裕久さんは、日本におけるイギリス歌曲のスペシャリストとしての草分けであり貴重な存在である。彼のことばで締め括りたい。

ピアーズの残した印象はあまりにも強く、日本人の私でさえも、様々な意味でピアーズと比較されることがあります。「イングリッシュ・テナー」の本質はとらえつつ、しかしどのイングリッシュ・テナーとも違う、“英国の味”を表現することが、私がめざすべき、私自身のスタイルの確立であり、歌手としてのアイデンティティーの確立であると信じています。
ヘンデルの愛したテノール、ジョン・ビアードと、ブリテンが生涯の伴侶として愛したピーター・ピアーズ。それぞれの時代において、イギリスの聴衆を魅了し、また後世にも影響を与える偉大な仕事をしたこの二人の演奏家は、私がイギリス声楽曲をライフワークとして歌い続けてゆく上での大きな存在です。彼らの残したイングリッシュ・テナーのレパートリーを21世紀の世界に歌い継ぐ者の一人として、私はここに、深い尊敬と感謝の念を捧げます。

●辻 裕久

【速報】第19回英国歌曲展(ten辻裕久&pfなかにしあかね)開催決定のお知らせ

テーマは「イギリスとイタリア」 (仮)です。
プログラムなど詳細は決定しだいご案内いたします。
ご期待ください!

■静岡公演 *コンサートシリーズ「世界のうた」特別企画
2015年9月6日(日)14:00開演(予定) 七間町・江﨑ホール

■東京公演
2015年9月9日(水)19:00開演(予定) 銀座・王子ホール

※参考文献
CD(FMC-5040)「ベンジャミン・ブリテン歌曲集~Ten辻裕久」
東京書籍「ヘンデル~クリストファー・ホグウッド/訳・三澤寿喜」

松井慶太指揮/L.v.ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

2014年12月1日(月)

若き実力派指揮者、松井慶太指揮の“第九”です。ご期待ください!

東京カンマーフィルハーモニー第10回定期演奏会

L.v.ベートーヴェン
「レオノーレ」序曲 第1番 op.138
交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付き」

指揮:松井慶太
ソプラノ:経塚果林/アルト:木下泰子
テノール:渡辺大/バリトン:浅井隆仁
合唱:東京カンマーフィルハーモニー合唱団
合唱指揮:山本義人

入場料:2,000円(全席自由)

●チケット取り扱い ※12月中旬発売開始(予定)
イープラス http://eplus.jp/(PC・携帯共通)
シン・ムジカ 電話:050-3712-0393/メール:shinmusica@mbr.nifty.com

●お問合せ
kammerphil_tokyo@yahoo.co.jp

東駿河混声合唱団第8回演奏会「ヘンデル:メサイア」

2014年11月25日(火)

東駿河混声合唱団第8回演奏会「ヘンデル:メサイア」を聴きに伺いました。
恥ずかしながら小泉ひろし先生の指揮するメサイアに接するのはこれが初めて。座席に着いてプログラムを見ると、管弦楽の錚々たるメンバーにびっくり、いやがうえにも期待が高まります。

コンサートプログラム(左)/終演後、西由起子さんと(右)

第1部が始まってすぐに引き込まれてしまった。私にとって自然に、まったくストレスなく音楽が進んでいく、ステージ上から何かをしようという恣意的なものを感じない。虚飾を排した高潔な演奏であり、音楽が今生まれているかのような生き生きとした表現が続く。それは何とも言えないあたたかさと厳しさの共存した世界でした。
これらは指揮者である小泉先生が創り上げたのだと感じた。音楽そのもの、作品そのものを見つめるその姿勢は孤高の信念と峻厳さが聳え立っているかのよう。そして、その棒に応える管弦楽の凄いこと、作品と共にある様式感が見事に創られ、溢れるように客席に伝わってくる。合唱もその空間に遜色ない落ち着いた歌唱で、素朴なイギリスの聖歌隊のような趣もある。特筆すべきはソプラノの西由起子さん。余分な力は皆無、詞の内容を過不足なく伝え、音楽に対して謙虚、誠実で、慈しむようにひとつの音を大切に奏でていく、その高貴な佇まいと清らかな歌は安心して身を委ねられる説得力に満ちていました。

長大な作品ですが最後まで演奏が弛緩することはなかったのは、やはり小泉先生の指揮によると確信する。“アラ”を探そうと思えばいくらでも見つけることのできる演奏だったかもしれない。しかしそれらをも包み込むほどに輝くばかりの成果が確かに存在した。作品に寄り添った解釈の大切さを感じつつ、客席の私たちは作品との深い一体感の中に浸ることができた。すばらしい体験であった。私たちは作品の姿が見える、そういう演奏を常に求めている。

東駿河混声合唱団創団10周年記念/第8回演奏会
ヘンデル:メサイア

指揮:小泉ひろし
ソプラノ:西由起子/カウンターテナー:上杉清仁
テナー:中嶋克彦/バス:星野聡
合唱:東駿河混声合唱団(合唱指揮:芹澤卓弥)
管弦楽:東駿河ハレルヤコンソート

2014年11月24日(月祝)14:00開演
長泉町文化センター ベルフォーレ 大ホール

ワセグリ定期と天龍餃子

2014年11月25日(火)

池袋で天龍餃子を食した後、早稲田大学グリークラブ「第62回定期演奏会」へ。

私の人生で2回目となる“ワセグリ体験”
今回は松井慶太さんが男声合唱の名曲「富士山」と三善晃先生の「クレーの絵本第2集」を指揮されるというので楽しみに伺いました。

第1ステージは「かみさまへのてがみ」・・・作曲の高嶋みどり先生も来場されていました。私も学生時代に歌いましたがこの曲は作品の魅力を客席に届けられるまで創っていくことが本当に難しい。今回もまだまだ練り上げていく余地があるように感じました。続いてのステージ「富士山」「クレーの絵本」は、松井さんの指揮。いずれの作品も合唱の世界では有名曲ですが、続けて聴くのは初めて。その質の違いにあらためて驚きました。演奏は合唱団の自主性を重んじ、けれんなく自然で品格のあるもの。最終ステージは「デーモン閣下委嘱初演ステージ」・・・デーモン閣下も来場され、会場の雰囲気もそれまでとは質の異なる熱気に変化していきました。私は比較的冷静に聴き始めたのですが、デーモン閣下のナレーション(録音)を交えたプロフェッショナルな演出設計に引き込まれ、最後までとても楽しく過ごしました。

私の期待度が高すぎたためそれぞれの演奏には少々物足りなさを感じましたが、何はともあれ、これだけのコンサートを実施できる大学合唱団が他にどれだけあるのかと考えると、何も申し上げることはできません。そして、学生の活動を支えるOBの皆様の強力なサポートには圧倒されるばかり。OBと現役との良好な関係性には憧れも含め想いを馳せました。

隣の席には松井慶太さんのお母様が青森から聴きにいらしていました。これも嬉しい出来事でした。

「歌の絆より強く! in 大船渡」参加者リストをアップしました。

2014年11月24日(月)

物品に付随する≪意味≫~CDという媒体

2014年11月20日(木)

11/20発売のレコード芸術(音楽之友社刊)に興味深い記事が載っていました。「欧米4カ国の音楽評論家による最新レポート/アメリカ」のセオドア・W・リビー・ジュニアさんの記事(広瀬珠子訳)で「形あるが故に・・・日本人と私の“もの”への愛」というタイトルです。

世界中の音楽業界がデジタル配信やストリーミングに移行している中、日本だけはCDが音楽業界の売上げの85%を占めているという事実は、とてもユニークで特筆すべきことのようです。セオドアさんは購入している音源の100%がCDとのことですが、私もほぼ同様です。頭が古い(新しい技術に移行できない)だけかもしれないけれど、ジャケットデザインに惹かれて商品を手にとり内容をイメージするワクワク感や、購入後自宅で開封しライナーノートを読み、プレーヤーで聴くという一連の流れはやめられない魅力があります。(その後の歓喜や落胆も含めて・・・)
近年は日本のレーベルが(たとえばタワーレコードのように)、国外レーベルのアーカイヴ音源を、リマスタリングとジャケットデザインにこだわり、次々とリリースしています。その充実した内容と質の高さ、パッケージのセンスには日本人の資質が最良のかたちで表れているように思います。また、ジャケットはLP時代のオリジナルデザインを継承していることが多く、私はCD世代ですが、このセオドアさんのようにLP時代に愛着を持っている方々にはより魅力的なのでしょう。

こんな想いや行為は、それ自体が音楽の本質を楽しんでいることと繋がるのか自信があるわけではないし、世の中の環境を照らし合わせてどうなのかは、広義、狭義共にわからないけれど、楽しんでいる自分を「自分らしい」と肯定的に思っています。

「美がもたらす歓びが物品に宿り得る、という概念がそこに具現化されています。日本の音楽愛好家のあいだでCD人気が根強い一因も、そのあたりにあると思われ自分には日本人的な部分がある、と私が思うのもそのためです」
レコード芸術12月号「欧米4カ国の音楽評論家による最新レポート/アメリカ」より抜粋

左はフランス「ハルモニア・ムンディ」、中央は日本「オクタヴィアレコード」、右は「タワーレコード(デッカ&ウェストミンスター音源)」(写真が悪くてごめんなさい)

シン・ムジカにもCD制作の依頼が多数寄せられますが、演奏者の皆様の一生の思い出をかたちにするという重みを常に心に留めつつ、ひとつずつ心を込めて制作にあたっていきたいと思います。

ドイツ・シャルプラッテンとシューマン≪女の愛と生涯≫

2014年11月20日(木)

偶然に聴いたアリーン・オジェーの歌う「シューマン:女の愛と生涯」がとても良かった。優しい語りのような・・・なんと素朴で純粋な歌だろうか。技巧によりかかることなく自然で、音楽的魅力が横溢する、品格に満ちた演奏だと思った。“演奏技術でどんな音楽をするのか”という根本的な問題についての明確な回答がここにあるかのよう。

プロデューサーの清勝也氏は言う
「ドイツ・シャルプラッテンでいろいろ録音をしている頃に僕が考えていたのは、ドイツ・リートはあまりにも詩の内容を外に出しすぎてきたのではないか、ということでした。≪冬の旅≫にしても、旋律もピアノの伴奏も完璧なくらい綺麗なのに、哲学的でしんねりむっつりした厭世的なところばかりが強調されているよう思っていました。シューベルトもシューマンもヴォルフも、もうちょっと人間が歌う喜びという方へ持っていきたかった。
結局≪冬の旅≫は、フォーゲルが思い入れを入れすぎず、シューベルトの旋律を非常に綺麗に出した演奏をしてくれて良かった。そしてシューマンの≪女の愛と生涯≫、これも凄い名曲なのに演奏となると難しいんですね。そういう意味で、オジェーのこの歌唱は思い入れすぎず、シューマンの綺麗なところを出していていいと思ってるんです。」
「シューマン歌曲集」(KICC9506)ライナーノートより抜粋

録音はまことに個性的で、今のオーディオファンには古臭いと一蹴されてしまうかもしれない。でも、この演奏に沿った的確なものであるという印象だし、むしろこの録音が演奏(CDとしての)の価値を創っているようにも感じられる。

※ドイツ・シャルプラッテン:東西ドイツの時代、東ドイツの国営レコード会社。東ドイツのレコード会社はシャルプラッテンのみであった。
※清勝也氏:徳間ジャパンコミュニケーションズのプロデューサーとしてドイツ・シャルプラッテンの日本版を担当した。

くいもの屋“わん”静岡北口店の真鯛の煮付け

2014年11月17日(月)

くいもの屋“わん”静岡北口店にて来年2月に予定されているコンサートの打合せ。主催者さんが東京からいらしてくださいました。
入店してすぐに店員さんから「良い真鯛が入ったので煮付けにしてみました。メニューにないものですがよろしければいかがですか?」とのオススメコメント。チェーン店でもこういうことがあるんだと思いつつ注文しました。お値段も手頃で美味しかった。
主催者さんとは10年前からのお付き合いで、昔話を交えながら和やかな雰囲気でした。このコンサートの情報はあらためて告知します。ご期待ください。

■くいもの屋“わん”静岡北口店の真鯛の煮付け(写真がいまひとつですみません)

原田ご夫妻をしのぶ“コスモスコンサート”(静岡音楽館AOI)

2014年11月16日(日)

本日は「原田ご夫妻をしのぶ“コスモスコンサート”」が開催され、スタッフとしてお手伝いさせていただきました。

全日本合唱連盟関東支部事務局長、静岡県合唱連盟副理事長・事務局長を歴任された原田溶子さん(2014年5月5日ご逝去)には、シン・ムジカとしても、蓑島個人としても大変お世話になりました。2004年辻正行賞設立時にはお力添えをいただき、2010年にシン・ムジカが静岡で活動を始めたときには、気にかけてくださり、数々のアドバイスやご助力をいただきました。関東支部や県合唱連盟のことは何でも原田さんに聞くのが常で、お忙しい中いつも親切で的確なお返事をくださいました。甘えてばかり、助けていただくばかりで恩返しのひとつもできないまま旅立ってしまわれました。

原田さんからのお言葉で印象深いのは、シン・ムジカ主催のコンサート会場でのこと。ご来場のお客様の顔ぶれを見ながら・・・「すばらしい人たちが来てくれているじゃないの。みんな応援したいと思っているのよ。良い企画なんだからもっとお客さんを呼べるはず。あなたの性格もわかるけど、出演者さんに申し訳ないのだからやり方を考えないとだめよ。相談にのるからアイディアを出してみましょう。」

過去のメールを見直すと原田さんとのたくさんのやりとりを見つけることができます。本当にお世話になり助けていただいてきたのだと実感します。

最後の会話は今年3月30日「おかあさんコーラス静岡県大会」の楽屋でした。
「蓑島さん、マリナートから書類が届いているから送ります。」
「はい、わかりました。対応しておきます。」
体調の芳しくない中でも、私に対しては凛としたお顔、お姿のままでした。

その日の原田さんの指揮は、音楽をする喜びに満ち溢れた、美しく神々しいものでした。
忘れることができません。

■プログラム

■開場前のステージと開場後のホワイエの様子、ロビーには写真パネルが飾られました。

積水ハウスの歌≪合唱バージョン≫

2014年11月12日(水)